【連載】「ルーツの旅」第10話 現地編

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中国の奥へ奥へと歩を進め、僕は洛陽という街までやってきました。ここが僕の今回の旅の目的地への《拠点》となる街です。

事前に地図を見ていて、平坦な農村地帯のようなところを想像していましたが、洛阳龙门(洛陽龍門)という駅で新幹線から下車した僕を待っていたのは、なんと高層ビルが立ち並ぶ近代的な都市でした。

駅周辺を行き交う人々の素朴な雰囲気に、高層ビルが林立する景観がマッチしているかというとそうでもなく、短期間で完成した一夜城のような違和感を覚えました。

ここまで内陸部に来ると、中国語を話せない僕はもはや誰とも会話が成立しないといっても過言ではありません。まるで別の惑星にやって来たような気がして楽しい一方、何をするにしてもとにかく不便です。

洛陽龍門駅から事前に予約しておいた宿周辺まで市バスが出ているはずだったのですが、言葉が分からず結局最終バスを逃してしまいました。最終バスを逃した事実に気づくのにも時間がかかり、この気持ちをぶつける相手もいません。最悪です。

 

過去に色々あり僕は旅先で声を掛けてくるタクシードライバーがうさん臭く見えてしまう病を抱えているため、結局宿まで約6km、1時間以上も歩きました。崋山という山を歩いてきたその晩だったこともあり、本当にくたびれました。流石にタクシーを捕まえておけば良かったと大反省。

途中、やってるのかやってないのか分からない薄暗い商店で、万が一の時のためのカップラーメンを調達して、23時過ぎにようやく「洛陽龍門国際青年旅舎」という宿に着きました。

中に入り、清潔感や明るさに少し安心しましたが、人影はありません。

中国語でおそらく「受付に誰もいなければココに電話してね~!」的なお気楽なプレートがカウンターに置いてあるものの、僕は今回の旅で中国の電話番号も持っていなければWi-Fiも繋がっていないので、埒が開きません。時間だけがただ過ぎていく何とも言えない感じです。

宿の予約をしてあったとはいえチェックインの締め切り時間を過ぎてしまっていたため、いよいよ適当にロビーで寝ちゃおっかと寝場所を探し始めた頃、館内の吹き抜けになっている上の方から、アクション映画のような音がかすかに漏れていることに気が付きました。

この宿に来て初めて感じる人の気配に、音のする方に歩いて行き、その音の発生源である2階の部屋を突き止め、もしも別の宿泊客だったら失礼な旅行客だな・・・とは思いながらおそるおそるドアをノックをしてみます。

「トントン・・・」

「ガチャ」

ドアが開いて中から部屋着の男性が出てきたので、つたない英語で申し訳ない風に(笑)チェックインしたい旨を伝えてみました。しかし男性は英語を話さず、流ちょうな中国語で何か伝えようとしてくるのですが、案の定お互いに話が嚙み合いません。

最終的に男性が「OK!OK!」と言って受付の方を指差したので、僕は受付に戻って待つことにしました。後に男性は宿のスタッフということが分かり、僕らは翻訳アプリを介して会話をして、技術の進歩に感謝しながら無事に部屋へと案内してもらいました。




部屋は5階の角にある相部屋(3名用ドミトリー)を貸し切りで使わせてもらえることになりました。最初はサービスで割り当ててくれたのかな?と良い方に考えていました。

ドア付近右手に2段ベッドが1つあり、奥にシングルベッドが1つ横たわっているという相部屋にしては珍しい部屋タイプです。僕はこのベッドの配置で二段ベッドに寝るのも変だと思い、奥のシングルベッドをチョイスしました。

夜も更けてきたので部屋の電気を消そうと入口付近のスイッチのところまで歩いて行き、この部屋の明暗を担うスイッチを切り、部屋はまっ暗になりました。僕は暗闇をベッドまで歩いて戻ります。広い部屋というのはどうも落ち着きません。

観光ビザの滞在期限が限られている中、ここから今回の難所(僕にとっての)である東家を目指すのであまりゆっくりはしていられませんが、翌日は洛陽の旧市街に行くぞ!と意気込み、目を閉じました。




夜中にふと目が覚めました。もう朝かと思うほどよく寝た気がしましたが、暗闇でスマホを手に取るとまだ深夜2時です。

0時過ぎに寝たと思うので、2時間も寝ていなかったことに驚きまた目を閉じましたが、なかなか二度寝することができません。

気が付くと部屋の外で「キュッ」という音が聞こえています。思い返せば少し前から聞こえていたような気がします。しばらくするとまた「キュッ」。

例えるのであれば、学校や病院のウレタン樹脂の廊下を上履きのような履物で歩いて、急に止まった時に聞こえるような特徴的な音。

それが不定期に「キュッ」・・「キュッ」・・・・・・「キュッ」と鳴っています。疲れていたので夢や幻聴かとも思いましたが、確かに聞こえます。

すこし気味が悪くなってきたので、僕はその音の正体を突き止めようと暗闇を部屋の入口まで歩いて行き、ひとまず部屋の電気を点けました。そして息を呑み、ゆっくりとドアを開けました。

建物は、真ん中が吹き抜けの回廊式になっています。人の気配は感じられず、音は聞こえません。何もないこと、そして誰もいないことを確認できたのでドアを閉め、部屋の電気をまた消し、僕は暗闇をベッドまで歩いて戻ります。

その後「キュッ」という音はしなくなり、僕はこれから向かおうとしている東家で戦死した先祖が見に来ているのかなとか思いながら、いつの間にか眠りに落ちていました。なんとも不思議な夜でした。

(翌日の夜に撮影した部屋の写真です。)




朝になり部屋のカーテンを開けると、曇り空でした。

この日は白马寺(白馬寺)の観光と洛陽旧市街の散策をすることにしました。

移動はバスを使います。

白馬寺の境内で空海(弘法大師)の像に出合いました。1000年以上前に遣唐使の一員として空海が唐に渡り、今でも日中友好のシンボルとして扱われているのは、実に感慨深いです。そしてまだ世界が今のように繋がっていなかった当時、日本人がこの地にやって来たのは想像を絶するほど凄いことだと思いました。空海はそれから日本に真言密教をもたらし、今なお高野山の奥之院で生きているとされています。

言葉が通じない中国で、故郷の日本に触れられてすこしホッとしました。

旧市街は古い建造物が多く活気に満ち溢れていて、過去にタイムスリップしたような気分になれる場所です。言葉が通じなくても親切な人ばかりで、旅行者としてこの日嫌な思いは一度もしませんでした。

歩いているだけで楽しく、さらにこの時期は中国の旧正月ということで街には夜まで賑わいがあって、結局20時過ぎまで旧市街の滞在を楽しみました。

翌日は、今回の旅の目的地「東家」に向かうための下調べの日にしようと考えていましたが、思いがけないことが起きます。

旅は行き当たりばったり!

つづく

 

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5 Comments

ローズガーデン

洛陽の駅前の高層ビルの写真はポストカードに使えそうですね!中国のイメージが変わりました。でも経済優先はいつか国を滅ぼすのではないかと危惧しております。

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naohiroYODA

コメントありがとうございます!人口14億の国で、僕が目にしたのはほんの一部です。。。怖くもあり、分からないことが多く面白い国だと思っています。

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